物語好きのブログ

映画や本の感想、自分の考えを書いています。 

フライト

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どこまでいっても、人は最後まで人でありつづける。


あらすじ

オーランドからアトランタへ向かっていた飛行機が、突然制御不能の事態に陥ってしまう。機長のウィップは、背面飛行を行い、その後胴体着陸した。
乗っていた六人が死んでしまうが、それ以外が助かったのはウィップの並大抵ではない手腕だと周りから絶賛される。だが事故調査委員会は、ウィップからアルコールや薬物検出されたとして、彼に過失致死罪を検討し始める。そして彼は普段からアルコールとコカインを乱用する、薬物中毒者であり、搭乗中も酒を飲んでいた・・・・・・
英雄か?それとも犯罪者か?



感想

最初から最後まで実に「人間」が描かれていた。
人は弱い生き物だ。自分を良く見せるために平気で嘘をつく。お酒は簡単に止めることはできないし、ストレスで暴言も吐いてしまう。
それと同時に人は強い生き物でもある。助からないと思われる場面でも、冷静に物事を見極め、最後まで諦めない姿勢を保ち続ける。それは人間だからこその強さだろう。
この映画では、ウィップが「弱く、強い人間」として描かれている。

その「人間らしさ」を象徴する場面がある。
事故が起きてしまった後、彼は流石に反省したのか家にあるアルコールや薬物の類を全て処分する。だが日に日にストレスが溜まりつづけ、またしてもアルコールに手をだしてしまう。アルコールを飲むと人格が荒れてしまうのにもかかわらずに。
僕の知り合いにもアルコールを普段から摂取し続けている人がいる。知り合い曰く「酒を止めるとストレスが溜まる」らしい。やはり、そのあたりはどうしようもないのだろう。習慣と中毒性に抗える人間なんてそうはいないものだ。この映画を見て、酒の魔力というものをさらに実感することができた。

ウィップという人間に関して、僕はすごく共感がもてた。人は止めようと思っていることをなかなか止めることができないし、自分を良く見せるためには平気で嘘をつく。
ウィップを見ていると、まるでそれが自分のことであるかのように問いかけられている気がした。

ここからは少しネタバレを含む。

公聴会前日、ウィップは知り合いの助力もあって、少しの期間禁酒することができた。
ホテルに宿泊中、多くの偶然から、酒を飲めるチャンスが到来する。
そこのウィップの葛藤のシーンが良かった。「ちょっとくらいなら・・・・・・」みたいな感情がひしひしと伝わってきて、どうなるんだ?と期待しつつ見ることができた。僕自身にも、似たような経験があるのでついつい応援してしまう。そしてやはり酒を飲んでしまうのもまた、あーやっぱりねーと人間なんだなと共感してしまった。

公聴会の最後に、彼は自分の非を認めてしまう。それは彼ができる、最も人間らしい誇りある行為だった。
自責の念も駆られていたのもあるが、それでも彼は非を認めた。それは強い「人間」にしかできないかっこよさだ。見ていて、なんだが僕自身もすっきりしてしまった。潔さってのは綺麗だ。

最後のシーンで、ウィップは監獄に入るが、すがすがしい顔をしていた。「監獄に入れられて言うのもなんだが、俺は初めて自由になった」その言葉がとても印象に残っている。

最後に息子が面会にくる場面がある。息子は非を認めた父親を最高の人物として尊敬していた。
息子がウィップにある質問をする。
「あなたは何者なの?」
字面だけ見るとちょっとよくわからないかもしれないが、この質問はとてもいい。このときの雰囲気といい、心境といい、心に染み入る質問だった。
この質問は、この映画の全てだといってもいいかもしれない。


ウィップは「良い質問だ」と発言し、このままエンドロールが流れる。だからウィップがどう返答したかはわからない。おそらく観客に向けてのメッセージでもあるからだろう。
ウィップはなんと答えただろうか?
いろいろあると思うが、ウィップはこう答えたと思っている。そして僕もこう答えるだろう。
「一人の人間だ」